鈴木鷹夫 第一句集句集『渚通り』昭和54年
勤抽
二階より素足降り来る桜鍋
土掘れば湧く水暗き半夏生
帯巻くとからだ廻しぬ祭笛
明日海へゆく夕焼に泳ぐ真似
柴栗の二つ三つは眠き数
目薬の一滴波郷忌が近し
熱湯へ水すこし足す桜の夜
向日葵に煙のごとく老婆来る
子へ妻へ野の虹見たる証し欲し
指組めば指が湿りぬ桜草
白菖蒲剪つてしぶきの如き闇
悪友に似て十薬の花点々
首出して筍二本愕き合ふ
信州穂高町
山葵田の彼方の水も青世界
ホテルに傘忘れ日が過ぐ巴里祭
秋空がまだ濡れてゐる水彩画
薄目ならむこの波郷忌の綿虫も
見得切りしまの枯兆す菊人形
哲人のごとくぼろぼろ檻の鷹
風花は空の音楽妻と聴く
根が赤きこと恥かしきはうれん草
メロン買ふために曲がりぬ渚通り
人は子を産み枯菊は火を待てり
暮れて着く男がひとり鮎の宿
忘年や酔のうしろの真の闇