令和3年10月
紫陽花に地震の続きのありにけり
白玉に相槌打つてゐるばかり
グランドの空のひろごり仰々子
逃げ腰の男扇をつかひけり
記念樹を螺旋にのぼる蟻の列
借りて抱く猫の筋力巴里祭
11月
夕立やたんざく形に宿場町
人前に出たくない日の籐寝椅子
しばらくは消息告げず螢追ふ
土用蜆旅愁少しくありにけり
秋立つや旧高麗郡の高麗神社
割箸の落ちてゐるなり秋の山
12月
頑なにいつものかばん萩日和
鶏頭に喉のかわきのある時間
封を切るものに料理酒秋涼し
文体のあそびすぎたるこの夜長
東京の塔まで見えて梨を食ふ
桔梗の木魚の音に揺れにけり
令和4年1月
人肌に柘榴あたため何もせず
ときどきは赤き石あり秋の蛇
あちこちに思考の隙間すすき原
密封の分厚き書類つるもどき
境界のまつすぐ引けず杜鵑草
鉛筆はこどものみかた秋うらら
2月
イヤホンのくらき音質鳥渡る
かたくなに肌は見せず菊人形
十月や箸箱のふたきつくなる
落花生さらりと運に任せるか
黄落や図書館裏ののぼりみち
まほろばは雨催ひなり石蕗の花
3月
冬蝶の側に控へてゐたりけり
山茶花に畳一枚間をとりぬ
極月や母からもらふ筆と墨
冬麗の梯子かけたる一樹かな
凍蝶やいつも眼鏡といふ虚構
仏間へとつづく一間に冬の蝿
4月
餅米を洗ふ腰付きぐらつきぬ
つきあたる柱鏡の淑気かな
小さめの蜜柑の下の見積書
首曲げて人たちどまる冬菜畑
冬深し硯の水をすこし足す
差し障りある書癖の賀状かな
5月
寒明くる探偵小説読み返す
黄梅やはるかに動く宇宙塵
早春のいろより濃くて紙粘土
杭ひとつとびきり高し水温む
バスを待つ眩しき時間犬ふぐり
パソコンの遠隔操作鳥帰る
6月
つぶさなる父の軍歴草を焼く
婚約の教師をかこみ卒業す
アネモネや天井高き時計店
でたらめに歌ふ老人花ぐもり
花冷やわが膝にぶき音たてる
出勤の道のすぢかひ花の雨
7月
たんぽぽや左折つづきの目的地
教師とも違ふ顔つき韮を摘む
春草に片手をついて水辺なり
花冷の括約筋をはたらかす
鷹夫忌のはうれんさうのやや苦し
面倒な用事もよかれ花の雲